箱根駅伝概論

箱根駅伝を中心に、陸上競技に関する私見を書き綴ります。なお、文中は敬称略とさせていただきます。

2限目:陸上長距離界のダイバーシティ

昨週末、陸上長距離関連の話題の中心になった選手たちには、異色の経歴を持つ人物が多かった。

 

まず、日本時間の9日(土)の早朝、ビッグニュースが飛び込んできた。

住友電工の遠藤日向が13分27秒81の5000m屋内日本新記録を達成したのである。

遠藤といえば、高校1年生で5000m13分台という日本初の偉業を達成したホープだ。

しかし、彼は箱根駅伝に出場するような名門大学でもなく、ニューイヤー駅伝で上位争いをするような実業団でもなく、当時新興実業団だった住友電工を進路として選んだ。

アメリカの名門チーム、バウマン・トラッククラブ(BTC)でも研鑽を積み、持ち味であるトラックでの走りに磨きをかけた結果、見事若干20歳での日本記録が生まれた。

 

10日(日)になっても、サプライズは止まらない。

八王子駅伝で優勝のゴールテープを切った中央大学の佐々木遼太は、なんと選手ではなく主務。

昨年選手から主務に転向したにも関わらず、トラック5000mの自己ベストを更新するなど進境著しい。

 

延岡西日本マラソンで男女アベック優勝を果たしたのは宏紀、沙央理の須河兄妹。

実業団での移籍を経験し、現在はサンベルクスに所属する兄の宏紀。一度は競技から離れたものの、会社員と実業団選手の両立を目指したオトバンク陸上部の立ち上げに参加した妹の沙央理。(※1)

ともに平坦な実業団選手生活ではなかった2人が、同じタイミングでマラソン初優勝を飾ったのである。

 

実業団ハーフでは、照井明人、山口修平が61分45秒、61分46秒で相次いでフィニッシュ。

2人は近年箱根駅伝初出場を果たした大学の出身者だ。(照井:東京国際大学、山口:創価大学

チームの箱根初出場の際に出場した2人は、ともに大学関係者のハーフマラソン記録を塗り替えるという歴史も作り上げた。

 

極め付けは彼らを上回り、61分39秒で9位に入った京セラ鹿児島の中村高洋だろう。

35歳。名古屋大学大学院卒。フルタイム勤務。市民ランナー。

誤解を恐れずに言えば、陸上界の王道とは全く見当違いの道を駆け抜けた男が、日本記録まであと1分少々のところまで辿り着いたのだ。

常識を遥かに超えた偉業に、驚きの声は各所で聞こえた。

来月3日の東京マラソンにもエントリーされており、これ以上の衝撃が見られるかもしれない。

 

陸上競技に限らず、人間にとってどんな環境が正解なのかは千差万別である。

これまで正しいと考えられてきた道が、自分にも絶対に適合している保証はない。

選択肢が増えること、道が開かれていることの重要性は、彼らの経歴と結果が充分すぎるほど教えてくれたはずだ。

 

そして、もう一つ忘れてはならないことがある。

彼らは飛び込んだ手探り状態の環境の中、自らの手で創意工夫し、今回の快挙へと繋げたのだ。

その努力と精神力に、最大限の敬意を表したい。

 

 

注釈

※1-参考文献①

 

参考文献

①朽木誠一郎,2018「「その後」も人生は続いていくから 「文化系」企業が立ち上げた実業団」, BuzzFeed News

https://www.buzzfeed.com/jp/seiichirokuchiki/athlete-sonogo ,2019年2月11日閲覧).